
Vol.162 不動産の予算は、どう決めたら良い?
不動産の予算は、どう決めたら良い?
─理想の家探しは「数字の現実」と「夢の折り合い」から
「この家、いいな!」と思った瞬間、もう恋は始まっている
家探しをしていると、誰しも一度はこう思う瞬間があります。
「このリビングの雰囲気、最高!」
「このキッチンで料理したい!」
─はい、もうそれは「恋に落ちた瞬間」です。
ただ、恋と違って、不動産には現実的な“お金の壁”が存在します。
その壁を正しく見積もることができないと、
せっかくの家探しも「現実離れの夢物語」で終わってしまうかもしれません。
今回はそんな「不動産の予算、どう決める?」をテーマに、
数字だけではない“リアルなお金の考え方”をお話ししていきます。
まず知っておきたい:「買える」と「返せる」は違う
住宅ローンの事前審査が通った瞬間、多くの方がホッとします。
「これで●●万円までは借りられるのか!」
──そう思うのも当然です。ですが、ここで立ち止まってください。
ローン審査で出てくるのは、「あなたの収入なら、返済が“理論的に可能”な金額」です。
つまり「買える金額」であって、「無理なく返せる金額」ではありません。
たとえば、毎月の返済額が15万円でギリギリ組めたとしても、
・車の買い替え
・子どもの教育費
・旅行や外食などの“ゆとり費”
を考えると、「返済で終わる毎日」になってしまうことも。
予算を考えるときの第一歩は、
“金融機関が貸してくれる額”ではなく、“自分が無理なく返せる額”を基準にすること。
ここを間違えなければ、家探しの方向性もブレずに進められます。
“年収の○倍”はあくまで目安
よく耳にするのが、「年収の5倍までなら安全圏」という言葉。
たとえば年収600万円の人なら、3,000万円くらいが目安─という考え方です。
確かにこれは「昔からの一つの指標」ですが、実際の生活環境やライフプランによって答えは大きく変わります。
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■共働きかどうか
■子どもの人数・年齢
■車の維持費や保険料
■将来の介護や親との同居予定
などによって、「返せる範囲」はまるで違うのです。
住宅ローンは“35年の長期契約”が基本。
いま余裕があっても、10年後・20年後の生活変化を見越して計画することが大切です。
「毎月の支出」から考えるのが現実的
もう少しリアルに考えてみましょう。
あなたが今、家賃+駐車場代+管理費などで月々いくら支払っているかを見てください。
たとえば毎月の家賃が12万円なら、それが「自分が生活を維持しながら出せる金額」です。
住宅ローンの返済が同じ12万円程度なら、「生活レベルを変えずにマイホームを持てる」ということになります。
ただし、持ち家になるとここに「固定資産税」・「修繕費用」・「火災保険料」などが加わります。
それらを考慮して、ローン返済は今の家賃より1~2万円少なくなるように設定するのが安全です。
“頭金ゼロ”で買える時代、でもリスクもある
最近は「頭金ゼロ」、「諸費用もローンOK」といった広告をよく見かけます。
確かに、それでも購入は可能です。ですが、頭金をまったく用意しないと、
・毎月の返済が増える
・ローン総額の利息負担が大きくなる
・万が一売却時にローン残高が上回る「オーバーローン」になる
といったリスクもあります。
できれば、物件価格の1割前後(3,000万円の家なら300万円程度)は頭金として準備できると理想的。
ボーナス払いを頼りにするより、毎月の返済を一定にしたほうが、長期的には安心です。
とは言え、ローンを組まれる方は、諸経費として物件価格の約8%程が別途必要になります。
これは、手数料や税金と言った趣旨の費用になります。
戸建・マンションで変わる「維持費」
家の予算を考えるときに忘れがちなのが、「買った後の費用」。
戸建とマンションでは、このランニングコストの性質がまったく違います。
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戸建
→ 修繕・メンテナンスは自己責任。10~15年ごとに屋根や外壁塗装で数百万円かかることも。 -
マンション
→ 管理費や修繕積立金を毎月支払う必要がある。将来的に値上がりするケースも。
つまり「同じ価格帯の物件でも、購入後にかかるお金の流れ」が異なるのです。
目の前の“購入価格”だけでなく、“維持できるかどうか”もセットで考えるのが本当の意味での予算設定です。
「教育費」や「老後費」とどうバランスを取る?
子どもが小さいうちは気にならなくても、進学すれば教育費は一気に増えます。
文部科学省のデータによると、大学まで私立に進むと2,000万円以上の教育費がかかるとも言われます。
また、老後資金の準備も見据える必要があります。
住宅ローンの完済が65歳以降にずれこむと、退職後も返済が続くケースも。
そのため、
「家は欲しいけど、教育と老後にもしっかり備えたい」
という方は、あえて少し控えめな予算設定をしておくのが堅実です。
ローンの返済が軽ければ、将来の選択肢が広がります。
「見栄の家」より「暮らしの家」を選ぶ
住宅購入で意外と多いのが、「まわりの影響による予算オーバー」です。
「同僚が4,000万円の家を買ったらしい」
「友人が駅近マンションを買って羨ましい」
──この心理、わかります。でも、家はステータスではなく“生活の器”。
本当に大切なのは「どんな暮らしをしたいか」です。
たとえば、駅徒歩5分の狭いマンションより、少し郊外でも広く静かな戸建を望む人もいます。
逆に、利便性を最優先してコンパクトに暮らす人もいます。
「いくらの家を買うか」ではなく、「どんな暮らしをしたいか」を基準に予算を決める。
これが、後悔のない選択につながる考え方です。
最後に…不動産会社と一緒に「家計シミュレーション」を
不動産会社は“物件を売る”だけの存在ではありません。
実は、購入予算の立て方やローンの組み方についても専門的なアドバイスができます。
「年収から見た適正価格」だけでなく、
「理想の生活を守りながら買える価格」を一緒に考える
これが、プロの不動産会社の役割です。
夢のマイホームを、無理のない現実で叶えるために、まずは一度、数字の整理から始めてみませんか?
記:ファイナンシャルプランナー 菊池