
Vol.149 年齢を重ねるにつれて賃貸は厳しくなる?
年齢を重ねるにつれて賃貸は厳しくなる?
~老後の住まいを考えるなら“今”が大切~
「一生賃貸でいいや」「家を持つより、身軽な賃貸暮らしのほうが自由で安心」
――こんな声を聞くことがあります。
確かに、若い頃や現役世代であれば賃貸は便利でフットワークも軽い選択肢です。
しかし、年齢を重ねるにつれて状況は大きく変わります。
実は日本の賃貸市場には、高齢者が借りにくくなる“見えない壁”が存在します。
本記事ではその実態を分かりやすく解説し、老後の住まいをどう考えるべきかを考えてみましょう。
1. 高齢者が賃貸を借りにくい現実
まず知っておきたいのは、オーナー(大家さん)や管理会社の視点です。
1-1 高齢者に貸すリスクとは?
大家さんは入居者を選ぶ際、どうしてもリスクを意識します。
高齢者に貸す場合、以下のような懸念を持たれることが多いのです。
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■健康リスク:急病や孤独死の可能性
■支払いリスク:年金暮らしで家賃滞納が心配
■契約トラブル:保証人を立てられないケースが多い
■原状回復リスク:事故発生時の特殊清掃や資産価値低下の懸念
こうした要因から、「なるべく若い人に貸したい」と考える大家さんは少なくありません。
1-2 家賃保証会社の審査が通りにくい
現在、多くの賃貸契約では「家賃保証会社」を利用します。
これは、入居者が家賃を滞納した場合に代わりに立て替えてくれる制度です。
しかし保証会社も営利企業。
入居者が「長期的に安定して家賃を支払えるか」をシビアに判断します。
年齢が高くなると収入が年金のみになるケースが多く、
さらに健康状態のリスクも加味され、保証会社の審査が通らないことがあるのです。
1-3 連帯保証人問題
高齢になると「頼れる家族がいない」、「子どもが遠方に住んでいる」というケースも増えます。
大家さんや管理会社としては、保証人がいないと不安材料が増えるため、入居を断られることもあります。
2. 実際に起きている事例
2-1 「70歳を超えたら断られた」
ある方は70代で住み替えを希望しましたが、複数の物件で入居を断られました。
理由は「保証会社の審査が通らなかったから」。
年金収入だけでは信用度が不足したのです。
2-2 「孤独死リスクで入居NG」
独居の高齢者が賃貸を借りようとしたところ、
管理会社から「もしものときに対応が難しい」と入居を拒否されたケースもあります。
孤独死による原状回復費用や周辺住民への影響を懸念されたのです。
2-3 「退去を迫られるケース」
契約更新の際に「オーナーの意向で更新できません」と言われ、事実上退去せざるを得なかった高齢者もいます。
表向きは「建物の建て替え」などの理由でも、実際は高齢を理由に敬遠されることがあるのです。
3. 国や自治体の取り組み
こうした状況を受けて、国も高齢者の住まい確保を支援する制度を整えています。
高齢者住宅(サービス付き高齢者向け住宅)
安否確認や生活支援サービスが付いた賃貸住宅。
居住支援法人
住宅確保が困難な人の入居を支援する団体。
自治体の住宅相談窓口
高齢者向けの空き家バンクやマッチング制度を運営。
しかし、こうした制度を利用できるのは一部であり、必ずしも希望の立地や条件で住めるわけではありません。
4. 「持ち家」の安心感
ここまで読んで「やっぱり賃貸は厳しい」と感じた方も多いでしょう。
そこで改めて見直されるのが「持ち家」という選択肢です。
4-1 住まいを失う不安がない
持ち家なら、大家さんの意向や保証会社の審査に左右されることはありません。
賃貸と違い「借り続けられるかどうか」に怯える必要がなく、安心して老後を迎えられるのが最大のメリットです。
4-2 資産として残せる
家は資産です。
自分が住むだけでなく、将来は売却して現金化したり、子どもに相続したりできます。
賃貸では毎月の家賃が「消えていくコスト」ですが、持ち家は形ある財産として残るのです。
4-3 リフォーム・リノベーションで暮らしを変えられる
年齢に合わせてバリアフリー化するなど、自由にカスタマイズできるのも持ち家ならでは。
賃貸では「壁に穴を開けられない」「手すりをつけられない」といった制約がありますが、
持ち家なら自分の暮らしやすさを追求できます。
5. 賃貸派のよくある反論と実際
「賃貸でいい」と考える方の意見も整理してみましょう。
5-1 「賃貸のほうが自由に引っ越せる」
→ 若いうちはその通りです。しかし高齢になると「借りられる物件が限られる」ため、
むしろ引っ越しの自由度は大きく下がります。
5-2 「修繕費を払わなくていい」
→ 確かに大規模修繕の心配は不要です。
しかし高齢になると、「高齢者OKの物件」という条件がつくため、
選択肢が減り、結果的に割高な家賃を払うケースもあります。
5-3 「持ち家は固定資産税や管理費がかかる」
→ ランニングコストはかかりますが、
それでも家賃を払い続けるよりは最終的に負担が軽くなるケースも多いです。
6. 今から考える「老後の住まい戦略」
最後に、賃貸か持ち家か迷っている方に向けて、老後を見据えた住まいの考え方を整理します。
50代~60代前半までに決断を
住宅ローンを組めるのは現役世代のうち。
定年後では融資が難しくなります。
早ければ早いだけ有利になるのは事実です。
持ち家派は、将来を見据えた立地を選ぶ
「郊外で安い土地」は要注意。高齢になると車に乗れなくなり、不便を感じやすくなります。
生活利便性を重視しましょう。
賃貸派は、セーフティネット住宅を確認
国や自治体が提供する高齢者向け賃貸制度を調べ、将来の選択肢を確保しておきましょう。
年齢を重ねるにつれて賃貸が厳しくなる
――これは決して脅し文句ではなく、日本の賃貸市場における現実です。
オーナーや保証会社の審査基準、孤独死リスクへの懸念などが重なり、
高齢者の住まい確保は年々難しくなっています。
だからこそ、まだ働けるうちに「老後の住まい」を真剣に考えることが大切です。
安心して暮らせる持ち家を選ぶのか、支援制度を活用しながら賃貸を続けるのか
――答えは人それぞれですが、共通するのは「早めの準備が安心につながる」ということ。
あなたは10年後、20年後、どんな家で暮らしていますか?
未来の自分に後悔させないためにも、今から一歩を踏み出してみましょう。
記:宅地建物取引士 原田