
Vol.160 隣の家から迫りくる枝木!勝手に切って良い?
隣の家から迫りくる枝木!勝手に切って良い?
――境界の木や枝問題、法律とマナーを整理
家を購入して暮らし始めると、意外なトラブルに直面することがあります。
そのひとつが 、「隣の家の木や枝が自分の敷地に迫っている」問題。
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■隣の大きな樹木の枝が庭に伸びてきて掃除が大変
■日当たりが遮られて部屋が暗くなる
■落ち葉や花粉で庭や外壁の掃除が頻繁に必要
こうした状況に直面したとき、「勝手に切って良いのか?」と悩む方は少なくありません。
実は、木の処理には法律上のルールとマナーがあり、誤った対応をするとトラブルの原因になります。
隣家の木が迫ってきたときの正しい対処法や注意点を、法律・実務・マナーの観点から整理します。
1.隣の木を勝手に切るのは原則NG
まず覚えておきたいのは、隣の家の木は勝手に切ってはいけないということです。
なぜNGか?
■木の所有権は隣家にあるため、切る行為は所有権の侵害にあたる
■勝手に切ると「損害賠償」や「民事トラブル」に発展する可能性がある
例
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「庭に枝が伸びているから切った」 → 隣家が損害と感じれば、損害賠償請求やトラブルに
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「高く伸びた枝を切った」 → 枝の量や高さによっては建物や庭に影響が出たとして問題になる
結論:まずは自分の敷地にある枝や葉の掃除は自分で行い、木そのものや隣地側の枝を勝手に切ることは避けることが鉄則です。
2.法律上の権利と義務
隣地の木に関する権利や義務は、民法で定められています。
① 越境枝の切除権(民法234条)
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隣家の木の枝や根が自分の敷地に越境している場合、枝や根の切除を請求できる。
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ただし、勝手に切る場合は「自己責任で最小限にとどめる」とされています。
ポイント:まずは隣家に相談してから作業するのがマナーです。
② 日照・風通しへの配慮
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木が日当たりや風通しを遮る場合も、法律で直接切除できる権利はありません。
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日当たりや景観に影響がある場合は、隣家と交渉して解決策を探す必要があります。
③ 土地の境界樹木の場合
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境界線上に植わっている木は、共有物とみなされる場合がある。
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この場合は隣家と相談し、費用や手入れ方法を折半することが一般的です。
3.隣家に配慮しながら対処する方法
法律上の権利を知っていても、隣人トラブルを避けるための配慮が大切です。
① まずは「相談」
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枝が庭に伸びてきて掃除が大変なので、切っても良いか?
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日当たりが遮られるので剪定をお願いしたい
相談の際は、冷静かつ丁寧に説明することが重要です。
② 「剪定業者に依頼してもらう」
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自分で切ると、木や隣家に損害を与えるリスクがある。
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プロに依頼すれば、安全に剪定してくれる。
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費用は原則、依頼者負担ですが、トラブルを避ける安心感があります。
③ 「高さや枝の長さの範囲を明確にする」
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剪定する範囲を具体的に決めるとトラブル防止になる。
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「自分の敷地に越境している枝のみ」など、線引きを明確にする。
④ 文書で確認する
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会話だけでなく、メールや文書で合意内容を残す。
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「剪定日」、「作業範囲」、「費用負担」などを記録する。
4.越境以外のトラブルケース
① 落ち葉や花粉で迷惑
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法律上は、「多少の落ち葉や花粉」は隣家の権利侵害にはならない。
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ただし、掃除が大変な場合は相談して協力を求めるのが現実的です。
② 根が建物や水道管に影響
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根が隣家の建物や設備に被害を与えている場合は、損害賠償請求の対象になる。
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専門家に調査してもらい、証拠を残すことが大切。
5.戸建とマンションでの違い
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戸建:隣家との境界が明確で、木の剪定や越境枝の相談が直接可能
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マンション:敷地内の樹木は管理組合や管理会社が管理
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個人が勝手に剪定することはできなく、問題があれば管理会社に相談するのが正解です。
6.勝手に切る前にすべきこと
■自己判断で切らない
■隣家に相談する
■必要であれば業者に依頼する
■作業範囲・費用・日程を明確にして文書で残す
■マンションの場合は管理会社経由で対応する
法律上は越境枝の切除権がありますが、人間関係とトラブル回避が最優先です。
勝手に切ったことで隣家と関係が悪化するケースは非常に多く、注意が必要です。
隣家の木や枝は、法律や権利だけで解決できるものではありません。
重要なのは、冷静に状況を整理し、相談・合意を重視すること、です。
●越境している枝は自己の権利として剪定可能
●日当たりや落ち葉などの心理的負担は、マナーとして相談する
●戸建・マンションで対応方法は異なる
このように、樹木問題は法律だけでなく、人との関係性を大切にすることが長期的な安心につながります。
記:宅地建物取引士 原田