
Vol.161 火事を起こしてしまった!火災保険に入ってはいるけど…
火災後に知っておくべきリアルな手続きと現実
「まさか自分の家が火事になるなんて…」
多くの人がそう思っています。
しかし、現実には火災は誰の身にも起こりうる出来事です。
キッチンのコンロからの出火、漏電、タバコの火の不始末、近隣からの延焼……
一瞬の油断が、一夜にして家を失う結果につながることもあります。
そして、そんな“もしも”のために入っているのが、火災保険。
でも実際に火事が起こったあと、「保険に入ってるから大丈夫」と思っていると、
意外な落とし穴にハマることがあります。
火災後の現実は、想像以上に手続き・感情・人間関係が大変…。
今回は、火災保険加入者が実際に知っておくべき「その後のアレコレ」について、
色々とお伝えしてみます。
知識の備えも大切です。
1.火事の直後にやるべきこと
火災が発生したら、まずは命が最優先です。
しかし鎮火後からは、現実的な「やることリスト」が怒涛のように押し寄せてきます。
① 消防・警察への連絡
火災が起きた際には、消防だけでなく警察も現場確認に入ります。
後日、火災の原因証明書(罹災証明書・りさいしょうめいしょ)を発行してもらうためにも、
関係機関の報告は必須です。
② 罹災証明書の申請
火災後の生活再建には、行政が発行する「罹災証明書」が必要になります。
これは被害の程度(全焼・半焼・一部焼など)を証明するもので、
- ■保険金の請求
- ■税金の軽減
- ■公的支援の申請
に必要です。
市区町村役場の危機管理課や防災課に連絡し、現地調査を依頼しましょう。
③ 保険会社への連絡
火災が落ち着いたら、すぐに火災保険会社(または代理店)に連絡します。
このとき重要なのが、現場を片付ける前に連絡すること。
保険会社の調査員(損害鑑定人)が現場の状況を確認してからでないと、
「何がどの程度焼けたか」が分からず、保険金額が減ってしまう場合があります。
2.火災保険の「現実」:全部はカバーされない?
火災保険に入っていても、「全額戻ってくる」と思うのは危険です。
実際には、保険の内容や契約条件によってカバー範囲が違うのです。
① 建物と家財は別契約
- 建物:外壁・屋根・柱など構造部分
- 家財:家具・家電・衣類など生活用品
「建物だけ加入していて、家財が補償対象外だった」というケースも多いです。
「テレビもソファも全部焼けたのに保険が出ない…」というのは、まさにこのパターン。
② 実際の支払額は「時価」になることも
火災保険は「再調達価格(新しく建て直すための費用)」が支払われるタイプもありますが、
契約内容によっては「時価(減価償却後の価格)」での支払いになることもあります。
つまり、古い家電や家具は購入価格の半分以下の評価になることも。
「20万円の冷蔵庫が3万円評価」という現実も珍しくありません。
③ 延焼の場合はどうなる?
自宅が火元ではなく、隣家からのもらい火で焼けた場合、
日本では「失火責任法」により、原則として火元に損害賠償を請求できません。
火を出した人に重大な過失がない限り、損害賠償責任は問われない
つまり、「うちは悪くないのに焼けた」という場合でも、
自分の火災保険で修復するしかないのが日本の法律の仕組みです。
3.火災後に発生する“想定外の出費”
火災は「建物が燃えた」だけでは終わりません。
実際には、その後に想定外の出費が次々に発生します。
① 一時的な住まいの確保
- ■仮住まいの賃貸費用
- ■家具・家電の再購入
- ■生活再建の初期費用
■火災保険には「臨時費用保険金」や「失火見舞金」など
生活再建を支援する項目が含まれている場合があります。
契約書をよく確認し、対象になる項目を見落とさないようにしましょう。
② 撤去・解体費用
火災で全焼・半焼した建物を解体するには、想像以上の費用がかかります。
- ■解体費用
- ■残骸の処分費用
- ■敷地の清掃
■火災保険の「残存物取片づけ費用保険金」で補償されることがあります。
ただし、上限があるため、すべてをカバーできるとは限りません。
③ 税金・ローンの扱い
火災で建物が失われても、住宅ローンは残ります。
しかし、団体信用生命保険とは違い、火災ではローンが自動的に免除されることはありません。
火災保険の補償金で建て直す場合も、ローンと補償のバランスを再調整する必要があります。
ここで金融機関と相談しないと、後々の返済計画に支障をきたすこともあります。
4.近隣への対応と人間関係
火事のあとに意外と大変なのが、近隣への対応です。
たとえ延焼がなかったとしても、
- 消防活動で道路をふさいだ
- 水しぶきで隣家の外壁や車が濡れた
- 焦げた臭いや煙で迷惑をかけた
といった事情から、「ひとことの挨拶がない」ことでトラブルになることも。
【まずはお詫びの気持ちを】
「このたびはお騒がせして申し訳ありませんでした」
という一言を伝えるだけで、印象はまったく違います。
もし延焼してしまった場合は、
- 自分の火災保険
- 相手の火災保険(損害保険)
- 損害賠償責任の有無
を、保険会社同士で調整する形になります。
当事者同士で感情的に話すと関係が悪化するので、保険会社に間に入ってもらうのが得策です。
5.再建か売却か――選択の岐路
火災後の家は、再建だけが選択肢ではありません。
- ■建て直して住み続ける
- ■土地を売却して別の場所に住む
- ■建物を解体して駐車場や貸地にする
火災後の土地は、一見マイナス資産に見えますが、
立地や条件によっては「売却チャンス」になることもあります。
特に都市部では、「更地渡し」や「再建築プラン付き」で
不動産会社が積極的に買い取るケースも少なくありません。
再建が難しい場合は、早めに不動産会社に相談して、
「再建と売却、どちらが得か」を冷静に比較しましょう。
6.まとめ:火災保険は“スタート地点”にすぎない
火事が起きたあと、
「火災保険があるから大丈夫」
と思ってしまいがちですが、実際にはそれだけでは十分ではありません。
火災後の現実には、
- ■現場確認や証明書の手続き
- ■保険の範囲確認と申請
- ■仮住まいの確保や生活再建
- ■近隣への対応
- ■再建・売却などの選択
といった複雑な流れが待っています。
つまり、火災保険は「安心のスタートライン」ではあるが、「ゴール」ではないのです。
火事は、物理的な被害だけでなく、心のダメージも大きい出来事です。
それでも、
- 〇保険の仕組みを理解しておく
- 〇トラブルを未然に防ぐ知識を持つ
- 〇必要なときに専門家へ相談する
この3つを意識することで、いざという時の「安心の速さ」が違ってきます。
「火災保険に入っているから安心」ではなく、
“火災が起きた後の流れ”を理解しているからこそ安心。
あなたの資産と生活を守るために、火災後のアレコレ、今のうちに知っておきましょう。
記:宅地建物取引士 原田